交通事故で肩を強く打ったり、転倒して手をついたりした際に生じることがあるのが、上腕骨近位端骨折です。
上腕骨近位端とは、上腕骨のうち肩関節に近い部分をいいます。骨折そのものが治癒しても、
- 腕を上まで上げられない
- 背中に手を回しにくい
- 肩を動かすと痛い
- 肩の動く範囲が事故前より狭くなった
といった症状が残ることがあります。上腕骨近位部骨折では、肩や腕の痛みとともに、腕を上げたりひねったりする運動が難しくなることがあります。
交通事故の後遺障害では、特に肩関節の可動域制限が問題になります。
肩関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されていれば10級10号、4分の3以下であれば12級6号が検討されます。
また、人工骨頭・人工関節に置換している場合や、骨折部の痛み、上腕骨の変形が残った場合には、変形障害・神経障害の後遺障害等級が問題になることもあります。
このページでは、交通事故による上腕骨近位端骨折で残りやすい症状、認定される可能性のある後遺障害等級、認定を受けるために確認しておきたいポイントを解説します。
- 1. 上腕骨近位端骨折とは?
- 1.1. Neer分類
- 1.1.1. 2-part、3-part
- 1.1.2. 4-part
- 1.2. 上腕骨近位端骨折の主な症状
- 2. 上腕骨近位端骨折の治療
- 2.1. 保存療法
- 2.2. 骨折観血的手術
- 2.3. 人工骨頭置換術
- 3. 上腕骨近位端骨折の後遺障害
- 3.1. 肩が上がらない・動かしにくい場合
- 3.2. 人工骨頭・人工関節に置換した場合
- 3.3. 肩の痛みが残った場合
- 3.4. 上腕骨の変形が残った場合
- 4. 上腕骨近位端骨折の後遺障害認定で確認したいポイント
- 4.1. 骨折の部位と骨癒合の状態を画像で確認する
- 4.2. 肩関節可動域を正確に測定
- 4.3. 症状を具体的に医師に伝える
- 5. 交通事故で上腕骨近位端骨折で症状が残った方へ
上腕骨近位端骨折とは?
上腕骨は、肩関節と肘関節の間にある長い骨です。つまり、二の腕部分の骨です。近位端とは、上腕骨の体幹に近い部分、腕の付け根のことです。上腕骨近位端は、腱板や関節包、靱帯が付着し周囲の骨と連結しています。
上腕骨近位端骨折は、高齢者に多い骨折です。交通事故では、転倒した際に肩を強く打ちつけたことで発症しやすいです。高齢者の場合は、転倒して手をついただけでも発症することがあります。

Neer分類
最も一般的に用いられている分類法が、Neer分類です。骨片の1センチメートル以上の解離、45度以上の回旋を転位と定義します。
その上で、転位した骨片の数と骨折部位よって分類します。骨折脱臼についても分類しています。
骨片の数は、以下の3つに分類します。
骨片の数の分類
- ①2-part(二分節骨折)
- ②3-part(三分節骨折)
- ③4-part(四分節骨折)
骨折部位は、以下の4つに分類します。
骨折部位の分類
- ①骨頭
- ②大結節
- ③小結節
- ④骨幹部
2-part、3-part
1つ又は2つの骨片が、転位している状態です。
4-part
3つの骨片が、転位している状態です。骨頭への血流困難なため、整復は困難な状態です。
上腕骨近位端骨折の主な症状
上腕骨近位端骨折では、以下のような症状が見られます。
上腕骨近位端骨折の主な症状
- ①肩の強い痛み
- ②腕が上がらない
- ③肩の外側のしびれ、感覚の低下、指先に力が入りにくくなる
上腕骨近位端骨折の治療
骨折型や転位の程度などによって保存療法や手術療法が選択されます。複雑な骨折では、骨頭壊死や大結節の癒合不全、肩関節拘縮などが術後に問題となることも報告されています。
保存療法
転位がない場合又は転位が小さい場合は保存療法の対象です。整復位が保たれている場合は、外固定も不要です。上肢下垂位を4~8週間保つと骨癒合が得られます。
転位が強い場合は、入院治療による上肢外転方向への牽引が必要です。2~3か月で骨癒合が得られます。
骨折観血的手術
3-part、4-partでは、保存療法で骨癒合が得られないため、観血的手術が選択されます。
人工骨頭置換術
骨折面の損傷の大きなもの、粉砕骨折(4-part)で内固定が困難なもの、解剖頸に軟部組織の付着がない場合は、人工骨頭置換術の適応になります。
上腕骨近位端骨折の後遺障害
上腕骨近位端骨折では、以下の後遺障害が想定されます。
| 残った症状・状態 | 想定される後遺障害等級 |
|---|---|
| 人工骨頭・人工関節+可動域が健側の1/2以下 | 8級6号 |
| 人工骨頭・人工関節に置換 | 10級10号 |
| 肩関節の強直 | 8級6号 |
| 肩関節の可動域が健側の1/2以下 | 10級10号 |
| 肩関節の可動域が健側の3/4以下 | 12級6号 |
| 上腕骨に一定の変形が残った | 12級8号 |
| 医学的に証明できる肩の痛み | 12級13号 |
| 医学的に説明できる肩の痛み | 14級9号 |
肩が上がらない・動かしにくい場合
上腕骨近位端骨折で最も中心になる後遺障害です。
肩が上がらない・動かしにくい場合に、想定される後遺障害等級
- 肩関節の強直→関節の用廃として、8級6号
- 肩関節の可動域が健側の2分の1以下に制限→関節の機能に著しい障害を残すとして、10級10号
- 肩関節の可動域が健側の4分の3以下に制限→関節の機能障害として、12級6号
骨折後の変形、骨癒合の状態、関節面の損傷など、なぜ肩が動かないのかを説明できる器質的損傷との整合性が重要です。

以下の「関節の機能障害の後遺障害認定のポイント」も参照
関節の機能障害の後遺障害-可動域制限が残った場合の等級と認定のポイント-
交通事故で肩・肘・手首・股関節・膝・足首などの関節が動かしにくくなった場合、可動域制限の程度によって後遺障害等級が問題になります。ただし、角度だけで認定されるわけではなく、骨折・靱帯損傷・神経損傷などの器質的損傷との整合性が重要です。
人工骨頭・人工関節に置換した場合
人工骨頭置換術が行われた場合に、想定される後遺障害等級
- 肩関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されている場合→関節の用廃として、8級6号
- 肩関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されていない場合→関節の機能に著しい障害として、10級10号
人工骨頭置換術を行った場合は、通常の可動域制限とは扱いが異なります。可動域が健側の2分の1以下なら「関節の用を廃したもの」、それ以外でも「関節の機能に著しい障害を残すもの」として評価されます。
肩の痛みが残った場合
症状固定後も肩の痛みやしびれが残った場合は、局部の神経症状として12級13号または14級9号が認定される可能性があります。
12級13号では、痛みの原因を客観的な医学的所見によって証明できることが必要です。一方、14級9号では、明確な画像所見がなくても、事故態様、受傷直後からの症状、通院・治療の経過、症状の一貫性などから、痛みが残っていることを医学的に説明できるかが問題になります。
上腕骨の変形が残った場合
上腕骨は後遺障害上の「長管骨」です。骨折がずれた状態で癒合した場合や、上腕骨の骨端部に一定の癒合不全・欠損などが残った場合は、「長管骨に変形を残すもの」として12級8号が問題になることがあります。
上腕骨近位端骨折の後遺障害認定で確認したいポイント
骨折の部位と骨癒合の状態を画像で確認する
レントゲンやCTで、
- 骨折部位
- 転移の程度
- 骨癒合の状態
- 関節面の変形
などを確認することが重要です。
肩関節に健側と比べて2分の1又は4分の3以下の可動域制限があっても、骨折の変形が軽度の場合は、後遺障害が認定されない可能性が高いです。
肩関節可動域を正確に測定
肩関節の可動域角度を正確に測定してもらうことが重要です。可動域角度は、症状固定時だけでなく、治療開始時から測定し記録してもらうのが理想です。
症状を具体的に医師に伝える
後遺障害の認定は、画像所見と実際の症状が一致していることが重要です。さらに、事故直後から症状固定まで一貫して症状が継続していることが重要です。後遺障害診断書だけでなく、治療経過の記録も重要な資料になります。
したがって、交通事故直後から、具体的な症状や生活・仕事での支障を医師に、きちんと伝えておくことが重要です。
交通事故で上腕骨近位端骨折で症状が残った方へ
交通事故による上腕骨近位端骨折では、骨折自体は治癒しても、肩が上がらない、肩を動かしにくい、肩に痛みが残るといった症状が残ることがあります。
後遺障害で特に問題になるのは、肩関節の可動域制限です。
肩関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されている場合は10級10号、4分の3以下の場合は12級6号が検討されます。また、人工骨頭・人工関節に置換している場合には8級6号または10級10号が問題となるほか、肩の痛みについて12級13号・14級9号、上腕骨の変形について12級8号が検討されることもあります。
もっとも、「肩が動かない」というだけで、後遺障害が認定されるわけではありません。
骨折の状態や骨癒合後の画像所見と、残っている可動域制限・痛みとの整合性が重要です。症状固定が近づいても肩の動かしにくさや痛みが残っている場合は、後遺障害診断書を作成する前に、画像所見や肩関節の可動域測定の内容を確認しておくことが大切です。
交通事故による上腕骨近位端骨折で後遺症が残っている場合は、後遺障害申請を行う前に交通事故に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。

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