PTSDの後遺障害認定を取上げます。
非器質性精神障害の後遺障害
PTSDは、非器質性精神障害として、後遺障害と認められた場合の後遺障害等級は、9級・12級・14級のいずれかになります(非器質性精神障害の後遺障害参照)。
PTSDの診断基準
PTSDは、アメリカにおいて、ベトナム戦争の帰還兵の精神障害がきっかけに精神医学分野で認知された特定の精神疾患で、外傷体験後のフラッシュバックが主な症状です。
現在使用されているPTSDの診断基準は、①WHOのICD‐10と②アメリカ精神医学会のDMS‐5があります。
ICD-10
以下の(1)~(8)を全て充足すると、PTSDと診断されます。
ICD‐10の診断基準
(1)自ら生死にかかわる事件に遭遇したり、他人の瀕死の状態や死を目撃、かつ、自らが危険に巻き込まれた体験などの破局的ストレス状況に暴露された事実がある
(2)自分が「危うく死ぬ、重傷を負うかもしれない」という体験の存在
(3)通常では体験し得ないような出来事
(4)途中覚醒など神経が高ぶった状態が続く
(5)被害当時の記憶が無意識のうちによみがえる
(6)被害を忘れようとして感情が麻痺し、そのため回避行動を取る
(7)外傷的出来事から1か月後の発症、遅くとも6か月以内の発症
(8)脳器質性精神障害が認められない
DMS‐5
DMS‐5では、PTSDは、実際に又は危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性的暴力など精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたことで生じる特徴的なストレス症候群とされています。
DMS‐5では、①外傷体験、②再体験、③回避、④認知及び感情の変化、⑤覚醒の5項目について該当する状態かどうかを評価します。
PTSDの後遺障害認定
上記のとおり、自賠責保険の後遺障害認定では、非器質精神障害として後遺障害と認められた場合の後遺障害等級は、9級・12級・14級のいずれかになります。
自賠責保険で14級の限度でしか後遺障害等級が認められていなかった時期に横浜地裁平成10年6月8日判決がPTSDの発症を認め、後遺障害等級7級を認定して注目されました。
しかし、PTSDの発症を認めるものは少ないのが、その後の裁判例の動向です。裁判例の傾向として、医師にPTSDと診断されていても、それだけでPTSDの発症を認めず、診断基準に照らして、診断要件を充足するかどうかを検討して結論を出すことが多くなっています。
診断基準に照らして検討する際に重要視されているのが、極度に外傷的な出来事への暴露があったかどうかです。つまり、死の恐怖を味わうような状況、交通事故でいえば事故状況の激烈さの問題ということになります。したがって、通常の交通事故では、PTSDが認められることは、ほとんどないと考えられます。