後遺障害による逸失利益と死亡による逸失利益の算定で問題になる労働能力喪失期間を取上げます。
労働能力喪失期間が問題となる損害
労働能力喪失期間は、①後遺障害による逸失利益と②死亡による逸失利益について問題となります。
後遺障害による逸失利益の算定方法
後遺障害による逸失利益は、以下の計算式によって、算定します。
死亡による逸失利益の算定方法
死亡による逸失利益は、以下の計算式によって、算定します。
労働能力喪失期間
後遺障害による逸失利益と死亡による逸失利益で呼び方が異なりますが、労働能力喪失期間と就労可能期間の考え方は共通しています。以下では、特に断らない限り、労働能力喪失期間と記載します。
労働能力喪失期間の始期
後遺障害の逸失利益の算定に当たっては、症状固定日が始期になります。
症状固定日にまだ就労していない幼児などの就労の始期は18歳を原則とします。大学進学等により18歳以後の就労を前提とする場合は、就学終了予定時を始期とします。つまり、大学生や大学に進学する蓋然性がある場合は、大学卒業時の22歳が就労開始時期になります。
労働能力喪失期間の終期
原則、67歳が終期です。年長者の場合は、67歳までの年数と平均余命の2分の1のいずれか長い方を終期とします。ただし、被害者の性別、年齢、職業、健康状態等を総合的に判断して認定することになります。
労働能力喪失期間の終期が67歳とされているのは、昭和40年の生命表による男性の平均余命67.74歳から取った数字だと言われています。現在、平均余命は当時と比べて伸びています。しかしながら、現在の裁判実務においても妥当な数字として扱われています。
むち打ちの場合、労働能力喪失期間は短い
むち打ちの場合、後遺障害の等級に応じて、労働能力喪失期間は他の後遺障害に比べて短く認定されるのが裁判実務です。
このように、むち打ちの労働能力喪失期間が短く認定されているのは、症状の消退の蓋然性や被害者の就労における慣れなどを考慮しているからです。
保険会社は、最も短い期間で示談案を提示してくることが多いですが、裁判実務では、最も長い期間で認められることが多いといえます。
むち打ちの後遺障害は、神経症状の後遺障害として認定されます。神経症状の後遺障害は、むち打ちだけではありません。そこで、むち打ち以外の神経症状についても労働能力喪失期間がむち打ちと同様に制限されるのかが問題になります。この問題は、神経症状の労働能力喪失期間は制限される?で取上げます。