交通事故の損害賠償に関して、任意保険会社から支払われた保険金を遅延損害金から充当するのか?元本から充当するのか?という問題があります。
最高裁平成22年9月13日判決
損害賠償から任意保険金を控除する際に、遅延損害金から充当するのか?元本から充当するのか?が問題になった事案です。自賠責保険と同様に、保険金が支払われた時点で遅延損害金から充当するのが理論的には正しいと考えられます。しかし、裁判実務では、任意保険金は元本から充当しています。
事案の概要
Xは、平成14年3月6日、通勤途上、その運転する自動車が脱輪したため同車から降りて路側帯に立っていたところ、Yが運転し、保有する普通乗用自動車に衝突される交通事故により、右大腿骨開放性骨折等の傷害を受け、その後に右大腿切断後及び左膝複合靱帯損傷の後遺障害が残った。
Xは、自動車損害賠償責任保険契約に基づく損害賠償額とYが締結していた自家用自動車保険契約に基づく保険金の各支払を受け、また、労災保険法に基づく療養給付及び休業給付の各支給を受けた。なお、XとYとは、任意保険金の各支払に当たり、支払を受けた保険金を本件事故による損害金の元本に充当し、これによって消滅する損害金の元本に対する遅延損害金の支払債務を免除する旨の黙示の合意をした。
原審の判断
任意保険金の充当の問題に関して、最高裁は判断していません。原審は、加害者と被害者との間で任意保険金を元本に充当するとの黙示の合意があったことを前提に、任意保険金を遅延損害金から充当しています。
任意保険会社は、本件事故発生の平成14年3月6日以降、同月29日に同月分の休業損害金として12万4,695円を支払い、それ以降、Xの後遺障害の症状が固定するまでの間、各支払を必要とする都度、休業損害金(賞与減額分を含む。)、入院雑費、通院費、治療費、装具、家屋改造費、火葬場使用料を支払っていたものである。その支払先は、休業損害、入院雑費、通院費、家屋改造費、火葬場使用料はXに対し、治療費は治療を受けた病院に、装具は装具の購入先に直接支払われたものであり、いずれも支払の目的、趣旨を明示してなされたものであり、Xにおいてこれを理解し承認していたものである。
任意保険会社は、Yとの自家用自動車保険契約に基づき、本件事故による損害をてん補するため上記支払を行ったものであり、Xがこれを受け入れてそのてん補を受け、いずれも本来支払うべき時期から遅滞してされたものではなく、Xが遅滞による損害を受けたことはなかった。そうすると、XとYとの間では、本件事故の賠償において、上記支払にかかる損害がてん補されたもの、すなわち損害元金が消滅し、遅延損害金が発生しないことを前提にされたものであり、その旨の黙示の合意による支払がされたというべきである。